『China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』 マイケル・ピルズベリー



リチャード・ニクソンからバラク・オバマにいたる政権で対中国の防衛政策を担当し、

外交問題評議会と国際戦略研究所のメンバーでもあり、その他にも様々な肩書きをもつ

マイケル・ピルズベリーが著したもの。

翻訳書が日本で刊行されたぐらいにBSフジのプライムニュースで著者を観かけたことが

あるが、その時は真面目で誠実そうな印象を抱いた。

マイケル・ピルズベリー

本書冒頭に元CIA長官のR・ジェームズ・ウールジーが

「本書はCIAのエクセプショナル・パフォーマンス賞を受賞した、マイケル・ピルズベリーの

CIAにおける経験に基づいて書かれた。

『パンダハガー(親中派)』のひとりだった著者が、中国の軍事戦略研究の第一人者となり、

親中派と袂を分かち、世界の覇権を目指す中国の長期的戦略に警鐘を鳴らすようになるまでの

驚くべき記録である」

と「推薦の言葉」として述べられている。

「中国を研究するアメリカ人の多くは、中国を西洋帝国主義の気の毒な犠牲者と見なしがち

だ。それは中国の指導者が、積極的に後押しする見方である」(本書)

「このような中国を助けたいという願望と、善意に満ちた犠牲者という中国の自己イメージを

盲信する傾向が、アメリカの対中政策の軸となり、中国分析の専門家による大統領などへの提

言にも影響を与えた」(本書)

「アメリカのトップレベルの外交官と学者が共有する仮説をすっかり信じ込んでいた。

その仮説は、アメリカの戦略上の議論やメディア分析において、繰り返し語られてきた。

すなわち、『中国は、わたしたちと同じような考え方の指導者が導いている。

脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和的な大国となる。

しかし中国は大国となっても、地域支配、ましてや世界支配を目論んだりはしない』

というものだ」(本書)

「1971年にリチャード・ニクソン大統領が中国との国交回復に向けて動き出して以来、

アメリカの対中政策を決めるのは主に、中国と『建設的な関係』を築き、その発展を助けよう

とする人々だった」(本書)

「1980年代にCIAあるいは国防総省でわたしと一緒に働いたスタッフの中に、中国がアメリカ

をだまそうとしているとか、諜報上の重大な失策を招く恐れがある、と考えていた人はいなか

った」(本書)

上の見方が、アメリカに限らずヨーロッパや日本の『パンダハガー(親中派)』に代表される

中国に対しての呑気で甘い認識を表しているだろう。

著者は、90年代後半のクリントン政権時代に国防総省とCIAから中国のアメリカを欺く能力

と、それに該当する行動について調べよと命じられる。そこで見えてきたのが、

「タカ派が、北京の指導者を通じてアメリカの政策決定者を操作し、情報や軍事的、技術的、

経済的支援を得てきたというシナリオだった」(本書)

「これらのタカ派は、毛沢東以降の指導者の耳に、ある計画を吹き込んだ。

それは、『過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年まで

に、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する』というものだ。

この計画は『100年マラソン』と呼ばれるようになった」(本書)

そしてその『100年マラソン』の戦略の土台となっている九つの要素があるとしている。

①敵の自己満足を引き出して、警戒態勢をとらせない

②敵の助言者をうまく利用する

③勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する

④戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む

⑤長期的な競争に勝つうえで、軍事力は決定的要因ではない

⑥覇権国はその支配的な地位を維持するためなら、極端で無謀な行動さえとりかねない

⑦勢を見失わない

⑧自国とライバルの相対的な力を測る尺度を確立し、利用する

⑨常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されたりしないようにする

この戦略は、過去数十年にわたって推し進められ、現在も続行中として、

戦国時代の教えを元にタカ派が構築したものだ、と著者は推測する。

(当っているかどうかは知らないが)

ただこの事を発見したのにも関わらず、

「2009年になっても、同僚とわたしは、中国人はアメリカ人と同じような考え方をすると思い

込んでいた」(本書)

としている。素朴すぎる。

一読してみて中国を買いかぶり過ぎだし、CIAはその程度の分析力しかないのか、

と失礼ながらに思った。アメリカは遠いし歴史が無いからね。

日本では、西洋の研究者を持ち上げすぎる感があるが、中国研究に関しては、一部の日本人研

究者の方が先行しているし、冷静に分析している。当然だが歴史の蓄積もある。

特に稀代の歴史学者の岡田英弘氏は、「日中友好」が謳われていた70年代後半から、

中国に対しての見方に警鐘を鳴らしている。慧眼だ。

「中国人の社会では、持って生まれた『人を信頼する』という人間の自然な気持ちを矯めなく

ては出世できない。これは文化である。

そうしないとすぐに人に付け込まれるということは、自分も人の誠意や弱みを見せつけたら、

その瞬間に踏み込んで付け込まなくてはいけない、ということだ。

そうやって、先のことを考えずに、すぐにその場で取れるものは取ってしまえ、というのが

中国人の処世術の基礎だということなのである」(『現代中国の見方 Ⅴ』)

「法律の観念が中国と日本では全然違うのだ。

中国では、伝統的に、法律というのは人民を取り締まるためのガイドラインにすぎないのであ

って、為政者はこれに束縛されないというのが原則である」(同書)

「キッシンジャーはさらに、中国人にとっての外交は、アメリカ人にとっての外交と非常に意

味が異なり、きわめてわかりにくいと述べる。

そしてその原因を文化の違いだと考え、以下のように論じる。

『アメリカ人は外交問題を解決するには誠意をもってすればよいと考えるが、中国人にとって

は、誠意などはどうでもよい。

中国人の外交スタイルはあまり個人的ではないし、彼らは自分のほうから相手に頭を下げて頼

んでいると見られることを非常に嫌う。

アメリカ人が何でもはっきりと口に出して言うのに対し、中国人はストレートに物を言わずに

カーブを投げる。

しかも中国人は、自分たちが外交上使用するデリケートな“ほのめかし”を、アメリカの外交担

当者も理解しているものと思い込んでいるので、両者のあいだで絶えず誤解が生じる。

中国人から見ると、アメリカ外交はあまりにも感情的であり、そのときどきの気分に左右され

て、アメリカの政策は猫の目のように変わるように見える』

一方、アメリカ人にとって、中国外交は言うこととすることが非常に違っているよう見える、

とキッシンジャーは指摘する」(同書)

近年の中国の横暴な振る舞いに、世界中の『パンダハガー(親中派)』は方針を転換せざるを得

ないだろう。


「経済発展すれば民主主義に移行するだろう」などの見方も、今年の3月に全国人民代表大会

で、国家主席の任期を撤廃する憲法改正を行ったこと(皇帝制度)を見れば、時代に逆行してい

るのが明らかだし、粉砕されたことだろう。

中国は変わらないし、変わる気もない。(痛い目に合うまで)

一生、天下一を求める民族だ。(プロパガンダをメインで)

機を以って機を奪い、毒を以って毒を攻む。

『禅林句集』

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マイケル・ピルズベリー/野中香方子 日経BP社 2015年09月04日