『同盟国としての米国』太田文雄



2009年に出版されたものなので、少々古びた感も否めないが、

著者は、昭和45年防衛大学校卒で、昭和55年~57年米海軍兵学校交換教官。

平成4年にはスタンフォード大学国際安全保障・軍備管理研究所客員研究員で、

平成5年~6年米国防大学学生。

平成8年から約3年間、在米日本大使館国防武官を務め、平成13年から17年まで防衛庁情報本

部長。

平成15年ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院にて国際関係論博士号取得し、

平成17年退官(元海将)。

現在は(2009年時点)、防衛大学校安全保障・危機管理教育センター長兼政策研究大学院大学安

全保障・国際問題博士課程教授。

現場レベルまで熟知している安全保障の専門化が「日米同盟とは何か?」を説いたのが本書、

といえばわかりやすいのかもしれない。

著者は「日米同盟は日米のどちらが与えるものが大きいか?」という問いを日米両国の安全保障

関係者に問うてみたことがあるという。

すると日本側の回答が「米国が日本に対して与えているほうが、日本が米国に与えているより

も大きい」としているが、米側の回答は「フィフティー・フィフティー」とするものがほとんど

だという。

アメリカ側は、西太平洋からアフリカまでに至る地域にアクセスし、影響力を行使できるのは

日米同盟のお陰である、ということを良く知っていて、それに対し日本側は、アメリカにとっ

て在日米軍基地の重要性に気付いていない、と著者は指摘する。

これは、以前取り上げた軍事アナリストの小川和久氏も指摘していたことでもある。

以前からアメリカは、全世界的な基地の見直しを行っており、海外基地を5つのカテゴリーと

してわけている。

主要作戦基地        (Main Operating Base : MOB)

前方作戦基地        (Forward Operating Site : FOS)

協同安全保障施設      (Cooperative Security Location : CSL)

統合保管施設        (Joint Proposition Site : JPS)

途上インフラストラクチャー (En Route Infrastructure : ERI)

上から下に重要性も下がるが、日本にある米軍基地はほとんどが、最も重要な「主要作戦基地

(MOB)」としている。

それを小川和久氏の言葉に直すのなら「戦略的根拠地(パワープロジェクション・プラットホー

ム)」ということなのかもしれない。

『米軍再編の地政学』を書いた、ジョンズ・ホプキンズ高等国際問題研究大学院ライシャワー東

アジア研究センター所長のケント・カルダー博士によれば、

「歴史的に見ると外国軍の基地は一般に壊れやすい現象にもかかわらず、日本国内の米軍基地

が世界で最も安定した使用が可能となっている」

とも指摘されている。ちなみに、デイヴィッド・ヴァイン『米軍基地がやってきたこと』によれ

ば、全世界に米軍基地は1100近くあるとされている。

「全世界的な基地の見直しの如何にかかわらずに日本における米軍基地の重要性は将来ともに

大きく変わらないものと思われます。

これは、米国防総省が21世紀初頭から開始した「全地球規模の防衛態勢見直し(Global

Posture Review)」の基本的考え方の第一に「不確実性に対するための柔軟性の向上」が掲げ

られていることから、北朝鮮だけに対応しようとしている在韓米軍や、旧ワルシャワ条約機構

軍だけに対応してきた在独米軍などは削減の対象となりますが、在日米軍は海軍・海兵隊・空軍

が主体であり、世界のさまざまな地域に柔軟に展開してきているので、当然の帰着といえま

す」(本書)

西太平洋からアフリカまで(不安定の弧)をカバーする米軍を支えられるのは、工業力、技術

力、資金力の三拍子が備わっている日本以外にはない。

「米国以外で唯一米空母を事実上の母港としているのは日本の横須賀以外にはありませんが、

それは横須賀海軍基地艦艇修理施設に働く日本人従業員の高い修理・技術能力とインフラがある

からです。

これによって米海軍は、本来米本土西岸からはるばる西太平洋・インド洋に展開しなければなら

ないところを、日本の修理・技術力のお陰で莫大な時間と燃料の節約をしているのです」(本書)

なので著者の「日米同盟は日米のどちらが与えるものが大きいか?」という質問に対して、

アメリカ側は「フィフティー・フィフティー」と答え、日本列島を失えば、世界のリーダーの座

から転落する、ということを強く自覚しているということだろう。これを小川氏の言葉に直せ

ば、「非対称的な関係ながら最も双務的な同盟国として、戦略的な役割分担を果たしてい

る」。

ただ、アメリカは冷戦終了前後に日本の経済成長や技術力を潜在的な脅威と捉え、日本の防衛

技術の発展を押さえ込もうとしていたという。

さらには、冷戦終了の1989年には沖縄海兵隊司令官が「悪魔(日本)がビンから飛び出さないよ

うに繋ぎ止めるために日米同盟が役割を果たすのだ」と「ビンの蓋」発言をしていたという。

キッシンジャーの影響を受けているのかは知らないが、ライシャワー元駐日大使の努力が水の

泡になり幼稚でバカな奴だね。

この当時、著者は米国国防大学の学生で、その学校で全学生が集まって聴講する「米国の国

力」についての教務のなかで、アメリカの学生が「我々のライバルである日本やドイツはどう

なのか?」といった質問をしていたという。

しかし、ここ数十年の日米同盟を観察してきた著者によれば、現在はこうした傾向はほと

んどなくなってきているという(現在の国際情勢を見れば理解できるが)。

その理由は、第一に1990年代のバブル崩壊を機に日本経済が競争力を失速させてきたこと、

第二に米国がその技術力・経済力に自信を回復してきたこと、

第三に中国の台頭により日米が緊密に協力していく必要性を米国が感じ始めたこと、

としている。

戦略家のエドワード・ルトワックが、「「同盟」という戦略は、しばしば不快で苦難を伴うもの

でもある」と指摘しているが、本書のなかで著者も“はじめ”と“おわり”に「同盟は生き物であ

り、連綿普段の相互努力によって初めて継続が可能です」と書いているのが印象的。

いずれにしても、アメリカとの同盟関係を解消して日本単独で防衛することはほぼ不可能であ

り(自主防衛の予算は人件費ぬきで予算22兆円~24兆円/人員は国民皆兵を検討する必要もあ

る)、日米同盟を研究して活用するのが日本の安全を高める最善の策であり、本書ではそこを意

識して一般読者に説いてくれているので理解が深まる。

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太田 文雄 芙蓉書房出版 2009-10